にせねこメモ

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マクロン付きのギリシア文字の母音にアクセントや気息記号を付けて表示する

古典ギリシャ語の初級文法では α, ι, υ の長母音を示すためにマクロンを付け(ᾱ, ῑ, ῡ)、さらにこれに気息記号やアクセント記号が付けられる場合がある。しかし、多くの環境では入力・表示ができない。技術的に可能ではあるのだが、対応しているものはほとんどない。

Unicodeで入力する

古典ギリシャ語用の合成済みギリシア文字は Unicode の Greek Extended*1 に収録されている。Unicode 1.0 では Greek Extended は含まれていなかったが、ISO/IEC 10646(の前身)とマージされるに当って整合性の為に追加されたらしい*2。 ᾱ, ῑ, ῡ はあるが、それらに気息記号やアクセントのついた形は収録されていない。そのため、それらは結合文字を使って表すことになる。

古典ギリシャ語用の結合文字は以下のものがある。ラテン文字などのダイアクリティカルマークと包摂されているものも多い。

文字 Unicode 名前 備考
̀ U+0300 COMBINING GRAVE ACCENT 重アクセント記号
́ U+0301 COMBINING ACUTE ACCENT 鋭アクセント記号
̄ U+0304 COMBINING MACRON 長音記号
̆ U+0306 COMBINING BREVE 短音記号
̈ U+0308 COMBINING DIAERESIS 分離記号
̓ U+0313 COMBINING COMMA ABOVE 無気記号
̔ U+0314 COMBINING REVERSED COMMA ABOVE 有気記号
͂ U+0342 COMBINING GREEK PERISPOMENI 曲アクセント記号
̓ U+0343 COMBINING GREEK KORONIS 融音記号(例: κἀγω(=καὶ ἔγω))。U+0300と等価
̈́ U+0344 COMBINING GREEK DIALYTIKA TONOS U+0308 U+0301と等しい。use of this charachter is discouraged
ͅ U+0345 COMBINING GREEK YPOGEGRAMMENI 下書きのイオタ

例えば ἄ にマクロンを付けたものは ᾱ̓́ (ᾱ U+1FB1, ̓ U+0313, ́ U+0301) あるいはᾱ̓́ (α U+03B1, ̄ U+0304, ̓ U+0313, ́ U+0301)などと入力することができる*3

しかし、これを正しく表示するためにはフォントの対応が必要で、ギリシャ語が表示できるフォントでもほとんど対応されてないため大抵はうまく表示できない。

フォント

表示した文章は以下。「時は労苦の医者である」(田中美知太郎・松平千秋『ギリシア語入門 新装版』よりとった)

ὁ χρόνος ῑ̓ᾱτρὸς τῶν πόνων ἐστίν.
ᾱ́ ᾱ̓̀ ᾱ̔́ ᾱ̓ ῑ́ ῑ̓̀ ῑ̔́ ῑ̓ ῡ́ ῡ̓̀ ῡ̔́ ῡ̓

New Athena Unicode, KadmosU, AttikaU, BosporosU

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対応している稀有なフォントとして、 New Athena Unicode, KadmosU, AttikaU, BosporosU がある。これらは GreekKeys 2008 という有料ソフトの付属フォントらしいが、New Athena Unicodeのみ無料でダウンロードできる。GSUBによって合成済みグリフに置換しているので、‘liga’フィーチャを有効にすることで利用できる。InDesign(CS6)では言語をギリシャ語か英語にする必要があるようだった。

OldStandard (SIL OFL)

Brill (非商用無料)

Cambria (Windows 7などに付属)

基底グリフはマクロン合成済みのものを使うとうまく表示されないようだ。つまり、ᾱ̓́ (ᾱ U+1FB1, ̓ U+0313, ́ U+0301)では正しく表示されず、ᾱ̓́ (α U+03B1, ̄ U+0304, ̓ U+0313, ́ U+0301)などとしないといけないようである。

Asea

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Asea は合成済みのマクロン付きグリフ自体は持ってこそいるが、結合文字には対応していない。スタイルのセット(stylistic set)として実装されていので、 ἄ などを‘ss16’フィーチャを有効にして表示するとマクロンが付いた形で表示されるようになる。同様に‘ss17’でブレーヴェ付きの形になる。InDesign(CS6)では言語をギリシャ語にしないと正常に表示されなかった。



LaTeXを使って

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他の方法として、LaTeXのBabelとTeubnerパッケージを使用することで、LaTeXを使って古典ギリシャ語を含むPDFが作成できる。マクロンを含む様々な記号に対応している。

参考: LaTeXの細道・けもの道 http://a011w.broada.jp/wbaefznh35st/latex/babel110.html サンプル(pdf)

Ubuntuではaptでtexlive-lang-greekというパッケージをインストールすれば使える様だ。

まとめ

規格としては入力・表示できるけど、対応がとても悪い。古典ギリシャ語用キーボードでも普通入力できないし、フォントも対応してない。
古典ギリシャ語のマクロンは初級文法かよっぽど専門的なことでないと使わないと思うし、通常のテキストでは書かれない。このため合成済みの記号がUnicode規格に含まれていない。

これを見ると規格で一つの文字として用意されてないと実装は期待できない様に感じた。


(2017-01-09 OldStandard, Brill, ZK Mathesisを追記, サンプル画像は追々……)

*1:http://www.unicode.org/charts/PDF/U1F00.pdf

*2:この辺のいきさつについては http://www.tlg.uci.edu/~opoudjis/unicode/ken_adscripts.html に詳しい

*3:フォントによってはどちらかしか正しく表示できないものもあるので注意を要する。