タイ語組版でハイフネーションってあるの?…一応ある。
自分でもタイ語ではハイフネーションをしないものだとばっかり思っていたが、実際に用例がある。タイ語にもハイフネーションがあるとはっきり書いてあるサイトが見当たらなかったので、ここに書いておく。
ハイフネーション
英語やロシア語等の組版では、単語の途中で改行する場合に、行末にハイフンをつけて続きを次の行に送るハイフネーションと呼ばれる操作がある。特に、長い単語が含まれる場合に、行長を一定にするために使われる。
例:
We, therefore, the represen-
tatives of the United States
of America...
タイ語にハイフネーションはない?
タイ語でもハイフネーションはあるのだろうか?
モリサワの発行する英中韓組版ルールブックのタイ語では、次のように書かれている。
行揃えは、「均等配置(最終行左揃え)」が基本ですが、デザインによっては「左揃え」や「センター揃え」が使われることもあります。
タイ語 英中韓組版ルールブック(PDF) (2019/10/22閲覧)
この際、注意したいのは単語の間では改行を行なわない、ということです。タイ語にはハイフネーションのような考え方がないので、単語の区切りや改行してもよい位置などを確認しながら作業をするとよいでしょう。
このように、大抵は文章は均等配置(ジャスティファイ)され、行末のハイフンを全く用いない本も多い。
しかし、「ハイフネーションのような考え方がない」というのは言いすぎではないかと思う。実際の印刷物に、ハイフネーションを行った例がみられる。
タイ語ハイフネーションの実例
手元の本から見つけた例を挙げる。
タイ語辞書の例。
สุทธิ ภิบาลแทนによるพจนานุกรมประจำตัวนักเรียน (学生向け辞書)。2007年出版。
p11. เครื่องตกแต่ง (装飾品)の途中で改行されている。
p13. กระเจอะกระเจิง (群から離れて), พรรณไม้ (木の種類)の途中で改行されている。
p291. บรรณาธิการ (編集者)の途中で改行されている。
พระมหาพิชัยมงกุฎ (プラマハーピチャイモンクット; 王冠の名前), เจ้าแผ่นดิน (国王), พระราชทาน (お下賜になる)の途中でそれぞれ改行されている。
タイ語組版では普通句読点は使われないが、辞書では分かりやすくするためにピリオド、コンマといった英語風の句読点を使うことがあるらしい。
文芸書の例「窓際のトットちゃん」
黒柳徹子『窓際のトットちゃん』のタイ語版。Butterfly Book House (สำนักพิมพ์ผีเสื้อ)によって1983年に出版されたもの。
p39. สนุกสนาน (面白い)の途中で改行されている。
p39. โต๊ะโตะจัง (トットちゃん)の途中で改行されている。
p43. โรงเรียน (学校)の途中で改行されている。
p101. ประกอบ (組み立てる)の途中で改行されている。
p141. คุณครูใหญ่ (校長先生)の途中で改行されている。
p157. คุณครูใหญ่ (校長先生)の途中で改行されている。
p199. เด็กหญิง (女の子)の途中で改行されている。
これらを見ると、この本では「学校」などといった基礎的な語(複合語)でもハイフネーションがされていることがわかる。
多言語組版研究会の報告から
第4回多言語組版研究会の発表資料(東南アジアの文書スタイルの現地調査結果)において、次のような報告がある。
タイ国内でもっとも広く読まれている新聞であるThairat社と、タイ語組版について2003年にディスカッションした内容として、次のように書かれている。
(1) ハイフン
3.2 現地調査報告1(報告書3.3.3.2) (DOC) (2019/10/22閲覧)
タイ語起源の単語では、基本的にハイフンは使用しない。ハイフンが使用されるのは、1語が長くなる傾向があるパーリ語、サンスクリット語起源の単語だけに適用するのが通例という。その際も、ハイフンを挿入するのは自動化されておらず、手動で入れる。
新聞という媒体の特色と思われるが、ハイフンは、1段記事の場合だけに使用し、2段以上の記事では使うこともあるができるだけ避けるのが通例であると説明された。
これは2003年時点のことなので現在では異なっている可能性もあるし、また出版社・出版物等によってポリシーも異なってくるだろうと考えられる。
タイ王立協会による説明
タイの王立協会(Royal Society;旧Royal Institute)が約物(punctuation)の使用規則を定めている。ハイフンの使い方は次のページにある。
- สำนักงานราชบัณฑิตยสภา | ยัติภังค์ - สำนักงานราชบัณฑิตยสภา (2019/10/22閲覧)
これによると、
- 音節または複合語が分かれて次の行に続く際に行末に書く(=ハイフネーション)
- 押韻構成に従って音節を区切る際に、語全体を示すために使う
- 読み方を示す場合に、音節の区切れに書く
- 語の前または後ろもしくは前後を一部とりのぞいたものを示すために使う
- 「~まで」の意味で、時間・数量・場所の幅を示す
- ISBNなどのコードの数字のまとまりを区切るのに使う
- 語にどの文字(子音・母音・声調記号)が使われているかを示すために文字・記号の間に挟んで広げるために使う
以上7つが挙げられている。
(1)のハイフネーションの例を引用すると
คณะกรรมการกำหนดหลักเกณฑ์เกี่ยวกับการใช้ภาษาไทย มีการ
ประชุมทุกวันพฤหัสบดี เวลา ๑๐.๐๐ น. ณ ห้องนันทนาการราชบัณฑิตย-
สถาน ราชบัณฑิตยสถาน.
となっていて、王立協会“ราชบัณฑิตยสภา”の途中で改行されたためハイフンが挿入されているのがわかる。
他に王立協会の約物の使用方法を定めたのを見ると、タイ語では一般的に使われないピリオドやコンマなども解説されており、王立協会が定めているから一般に広く使われているとは言い難いかもしれない。
漫画の改行の例
改行の極端な例として、漫画が考えられる。特に日本漫画の翻訳など、縦に細長いフキダシに台詞を入れたものがあり、横幅が狭いので一行一語でほぼ縦書きのようになっていることもある。しかしながらハイフネーションがされているのは見ない。手元の本で見つけた例を挙げる。